枚方で叶える「ちょっとだけ」丁寧な暮らし

コーヒー片手に、本

【おすすめの一冊】夜更かしがちょっと愛おしくなる。宮田ナノのコミックエッセイ『もしもし、こちらは夜です』

「コーヒー片手に、本」は、日常にちょっとだけ丁寧さを加えてくれる素敵な本をご紹介するシリーズです。今日は、宮田ナノさんのコミックエッセイ『もしもし、こちらは夜です』をご紹介します。

私はもともと小説を読むのが好きで、ビジネス書やエッセイにも手を伸ばします。けれどコミックエッセイは、これまで読んだことがありませんでした。

そんなときに、ネットでおすすめとして目にしたのがこちらの一冊です。

当時の私は、夜に眠れず起きていることに少し罪悪感を覚えていました。

でも、この本はそんな夜の時間を、ヘンテコな夜も懐かしい夜もひっくるめて「夜が好きです」と断言していて……。読めば、夜起きていることもそんなに悪いことではないと、少し肩の力を抜いて考えられるかも、と思ったのです。

購入してページをめくると、ただ「静か」だと思っていた夜にもさまざまな顔があり、意外な面白さがあることに気づかされました。

もちろん、翌日に備えて早く眠る夜も好きですが、たまには夜更かしをして、夜だけに許された特別な時間を楽しむのも悪くない──そんなことを教えてくれた一冊です。

さあ、お気に入りのマグカップで、香り高いコーヒーを楽しみながら、心を豊かにする読書のひとときをお過ごしください。

『もしもし、こちらは夜です』表紙のアップ。黄色い帯には『夜が好きです。』の文字

宮田ナノさんの紹介

『もしもし、こちらは夜です』の本文。ページをめくるとさまざまな夜の色が描かれている

宮田ナノさんは、1995年生まれのイラストレーター・漫画家です。書籍の装画や挿絵、漫画、アニメーションなど幅広く手掛けています。

群馬県出身で、多摩美術大学を卒業後、デザイン会社に勤務。その後、2020年に『日々郷愁』で第10回新コミックエッセイプチ大賞を受賞し、2021年からフリーランスとして活動を始めました。

著書には『ハラヘリ読書』(KADOKAWA)、『すてきな退屈日和』(オーバーラップ)などがあります。

温かみのある絵柄と、ユーモラスでどこか親しみやすいエッセイ漫画が特徴で、読んでいると思わず微笑んでしまうような魅力を持っています。

『もしもし、こちらは夜です』はどんな本?

『もしもし、こちらは夜です』の表紙を斜めから撮影。やさしい雰囲気が際立つ

もしもし、こちらは夜です』は、宮田ナノさん自身の夜更かしや、子ども時代の夜の思い出をユーモアたっぷりに描いたコミックエッセイです。

宮田さんの家では、子どもの頃、22時以降の夜はほとんど未知の世界でした。厳格なお父さんの言い付けに従い、夜更かしは禁止。だからこそ、ほんのわずかに体験できた夜の時間や、大人になってから自由に過ごせるようになった夜の空気は、いつも新鮮で特別に感じられるのだとか。

この本では、そんな「夜の未知」や「夜だからこそ感じられるワクワク感」を、宮田さんの温かみある絵とユーモラスな言葉で丁寧に表現。懐かしくて少しヘンテコな夜のひととき、優しい気持ちやドキドキする気持ち、時にはちょっぴり怖い気持ちまで、夜がもたらすさまざまな感情を読者と共有してくれます。

0時、ブラジルの人は起きているから大丈夫

『もしもし、こちらは夜です』の中身。月夜を見上げながらグラスを持つ宮田ナノさんのイラスト

読んでみて特に印象に残ったのは、夜の色の美しさです。

このコミックエッセイは夜が舞台ということもあり、さまざまな夜のシーンが描かれています。

その一コマ一コマに選ばれた夜空の色や、人物や室内の家具、遠くに見える建物や木の陰影など、細部に至るまで丁寧に表現されていて、夜のバリエーションの豊かさに改めて気づかされます。

特に印象的だったのは、宮田ナノさんがまだ夜を怖いものだと感じていた子ども時代のエピソードです。

家族が先に眠ってしまうと、置いていかれるようで心細く、どうしようもなく寂しかったそうです。そんなとき、心のおまじないとして宮田さんは「ブラジルの人は起きているから大丈夫」と唱えていたといいます。

ここはこんなに暗くても、地球の反対側では昼間で、みんなサンバを踊って活動している──そう考えることで、寂しさがふっと和らぎ、安心して眠ることができたのだそうです。

この描写からは、夜の怖さだけでなく、想像力を通して夜を楽しむ自由さや、安心感を見つける工夫まで感じられ、読んでいて心が温かくなる瞬間でした。

夜のエピソードを楽しむ──こんな人におすすめ

もしもし、こちらは夜です』には、町民運動会のために夜の森で練習する大人たちや、夏の虫の声を聞きながらベランダでぼーっと過ごす時間、4つ上の従姉妹との夜、そして昔祖父母に連れられた、今はない温泉で見上げた星空など、さまざまな夜のエピソードが詰まっています。

「私もある」と思うものもあれば、そうでないものもあり、夜だけでこんなに豊かな瞬間があることに驚かされます。そしてどの話も、夜が持つ不思議さと魅力を静かに、でも確かに伝えてくれます。

私はこの本を読んでから、時々夜更かしをすることに以前ほど罪悪感を覚えなくなりました。むしろ、夜だけに許された特別な時間を楽しめるようになり、夜が少しだけ愛おしく思えるようになったのです。

夜を大切に過ごしたい人、夜更かしに罪悪感を感じてしまう人、夜の静けさや不思議さを楽しみたい人に、ぜひ手に取ってほしい一冊です。

本の詳細

もしもし、こちらは夜です

1,540(税込)

発売日2024年06月22日頃
著者/編集宮田ナノ
出版社 大和書房
発行形態単行本
ページ数144p
ISBN9784479671251
目次

第1話 深夜の白日夢/小話1 運動会練習の森/第2話 夏の夜のベランダ/小話2 星空案内人一家/第3話 いとことの夜ふかし/小話3 いつかの年越し/第4話 夜の自販機さんぽ/小話4 歩き食い注意報/第5話 眠れぬ夜の過ごし方/小話5 深夜のさがしもの/第6話 3年ぶりのスーパー銭湯/小話6 久しぶりのバー“前編”/第7話 アウェイなカラオケボックス/小話7 久しぶりのバー“後編”/第8話 暗闇ハンバーガー/小話8 雪の夜のアオイちゃん

 


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堀 寛未

堀 寛未

HORI HIROMI

大阪府枚方市出身。社会事業開発ACTION代表。ひらかたパークで宣伝広報として勤めたのち、2020年よりソーシャルビジネスに携わり、これまでライティングや、マーケティングなど、829本以上の動画講義をあげてきた。「枚方で叶えるちょっとだけ丁寧な暮らし」をコンセプトにしたローカルメディア「Re:HIRAKATA」を運営。

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