0番「愚者」から始まったタロット制作。
そのとき星奈さんは、「意味を持った女性像を描きたい」という個人的な衝動に導かれ、一枚ずつカードに内面や象徴を落とし込む旅に出ました。
あれから数か月——ついに、すべてのカードが揃いました。
今回は、完成に至るまでの制作途中の気づきや、試行錯誤の裏話、そして星奈さんらしい表現のこだわりを少しずつ振り返ります。
占いの道具としてだけでなく、アートとしてのタロットの世界を、読者の皆さんと一緒に感じていただけたらと思います。

完成まで3か月、AIと試行錯誤の軌跡

――前回はタロット制作に取り組んでいる途中というお話でしたが、ついに全カードが揃ったそうですね。完成までの道のりを教えてください。
星奈:
「はい、ついに全カードが揃いました。制作自体は、0番『愚者』から始まったんですが、最後のカードが完成するまで、およそ3か月かかりました。その間、AIと一緒に試行錯誤する日々が続いた感じです。」

――AIを使った制作とのことですが、具体的にはどんな流れだったんですか?
星奈:
「まずカードを順に描いて、完成の前には、装飾を加える作業もあります。上下の色を整えたり、カード名を筆記体で入れたり、必要に応じて番号を振ったり……細部にまでこだわりました。」
――1枚のカードを仕上げるまでに、どれくらい試行錯誤したんですか?
星奈:
「結構大変でしたね。AIにプロンプトを入れても、最初は全然うまく伝わらず、とんでもないクリーチャーが生まれることもよくありました(笑)。
1枚のカードを完成させるのに、20〜30枚の絵を生成して、その中からベストなものを選びます。
さらに色を調整したり、不足しているアイテムを追加したり……プロンプトもうまくいかないこともあって、何度も描き直しました。」

――3か月の制作期間を経て、全カードが揃ったときの感想は?
星奈:
「並べてみたとき、すごく達成感がありました。途中で苦労したことや、AIと格闘した時間がすべて形になった瞬間で、『ああ、この旅をやり切ったんだ』という思いが込み上げましたね。」

描きながら見えた、星奈さんらしい世界観

――女性だけの世界にはどんな雰囲気を込めたんですか?
星奈:
「女性だけの世界なので、秘密のベールに包まれたような、禁断の花園のような美しさと危うさが同居しています。ただ、なぜこの世界に男性はいないのだろう、と考えると、どこか不気味な印象も生まれます。」

――人物の表情や感情表現には特徴がありますよね。
星奈:
「そうですね、あえて無表情にしています。人物たちの感情が見えないようにすることで、不気味さや謎めいた印象を出しています。
何を考えているのか本音がわからない、機械のような雰囲気……その微妙な違和感が、タロットの象徴性や世界観と合わさると、独特の緊張感や深みが生まれるんです。」
特に印象的だったカードの制作裏話

――今回の制作で、特に印象に残ったカードはありますか?
星奈:
「はい、まずは12番の『吊るされた男』です。本来は男性が逆さ吊りになっているカードで、ずっと『罰を受けている』イメージが強かったんです。
でも、ある占い師さんが『現状を打破したり、新しい視点を得るための“修行”を象徴している』と話されていて、『なるほど』と思いました。」
――女性に置き換えたかったとのことですが、AIでは描くのが難しかったんですね。
星奈:
「そうなんです。AIは吊るす様子を描くのが苦手で、最初は『落ちる』と指示すると、女性が絶叫しながら勢いよく落下してしまう(笑)。
結局、ふわりと空中に漂うような構図に落ち着かせるまで、何度も調整しました。」

――もう1枚、カップ(聖杯)の5も印象深いそうですね。
星奈:
「はい、本来は川辺で嘆く人物と、倒れた3つのカップ、そしてまだ残る2つのカップ、という構図です。
でもAIは指定した数で正確に描くのが苦手で、3つのカップを倒す構図を生成するのがなかなかできませんでした。
そんな時に偶然生成されたのが、大きな1つのカップが壊れて破片が散らばり、そばで女性が嘆いている絵です。後ろには小さいながらも4つのカップが揃っていて、原作とは違うけれど、カードの意味を新しい形で表現できた気がします。」
完成しても旅は続く。タロットカードのその先にある夢

――今後、このタロットカードシリーズは、どのように展開していく予定ですか?
星奈:
「当初はギャラリーで公開するだけの予定でした。
でも前回タロットカードの絵を公開したところ、『欲しい』と言ってくださる方がいて、それでカードの意味やスプレッドを解説したガイドブックも制作して、いつか販売できればと思っています。可能であれば箱もつけて、クロスも作りたいですね。
YouTubeで好きな占い師さんが何名かいらっしゃるので、その方たちにも使っていただけたら、嬉しいです。」

――占いとしてだけでなく、アートとしても楽しめる形になっているんですね。
星奈:
「そうです。1枚ずつアートとして楽しんでもらえるように作りました。
制作は大変でしたが、そのおかげでAIへのプロンプトも上達しましたし、いろんな絵ができあがるので楽しかったです。だから今は、タロットが完成して少し寂しい気持ちもあります。」
――将来的な展望は、ありますか?
星奈:
「はい。将来的には、オラクルカードや、ルノルマンカードも作ってみたいと思っていて、こっそりNotionにアイデアを描き溜めています。
今回の経験を活かして、また新しい世界観を描くのが今から楽しみです。」

全てのカードが揃い、AIとの試行錯誤を経て形になった世界は、星奈さんらしい繊細さと不穏さを併せ持っています。
制作の旅は、一旦の完結です。これからは販売に向けて、タロットカードのガイドブックや、スプレッドを整える作業に入ります。
ここから広がる可能性と想像の余白が、カードを手にする人に、静かで確かな希望を届けることを願って。


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