七十二候は、自然の変化を細やかに表現した伝統的な季節のリズムです。一年を72の細やかな時期に分け、それぞれに独特の美しい名前が付けられています。
これにより、私たちの暮らしと自然とのつながりを、より深く感じることができます。
「72の便り」は、七十二候をテーマに、季節の移ろいを丁寧に紡いでいくシリーズです。日本の美しい四季を感じながら、日々の暮らしに寄り添う瞬間をお届けします。

3/20~3/24頃の七十二候は、第十候「雀始巣(すずめはじめてすくう)」。
雀が巣を作り始める頃です。
春分を過ぎると、光はたしかに春のものになっていきます。けれど、自然の営みは、そんなに華やかなものばかりではありません。
雀は、忙しそうに飛び回ります。目立つ花のような美しさはないけれど、その小さな体には、これからの暮らしを支える確かな意志が宿っています。
巣をつくることは、生きていく場所を定めることです。
休む場所を持つこと。守る場所を持つこと。新しい命を迎えるための備えをすること。
雀始巣という短い言葉の中には、春の浮き立つ気分よりも、ずっと現実的で、ずっと誠実な時間が流れています。
季節が変わるとき、人はつい「何を始めるか」を考えます。
けれど本当は、その前に問われているのかもしれません。自分は、どこで生きるのか。どこへ戻るのか。何を足場にして、新しい季節を歩いていくのか。
雀の巣は小さいけれど、その意味は小さくありません。
春は、勢いよく飛び立つことだけで始まるのではない。
安心して生きられる場所を、自分の手で整えようとするとき、季節はもう確かに動き始めています。

もくじ
第七十二候「鶏始乳 (にわとりはじめてとやにつく)」1/30~2/3頃
第一候「東風解凍 (はるかぜこおりをとく)」2/4~2/8頃
第二候「黄鶯睍睆 (うぐいすなく)」 2/9~2/13頃
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