七十二候は、自然の変化を細やかに表現した伝統的な季節のリズムです。一年を72の細やかな時期に分け、それぞれに独特の美しい名前が付けられています。
これにより、私たちの暮らしと自然とのつながりを、より深く感じることができます。
「72の便り」は、七十二候をテーマに、季節の移ろいを丁寧に紡いでいくシリーズです。日本の美しい四季を感じながら、日々の暮らしに寄り添う瞬間をお届けします。

4/9~4/13頃の七十二候は、第十四候「鴻雁北(こうがんかえる)」。
雁が北へ帰っていく頃、という意味です。
春の空気がやわらいでくる頃、足元では花が咲き、町の景色も少しずつ明るさを増していきます。けれど、その一方で、空の上ではもう別れの季節も始まっています。
春は、ただ何かを迎えるだけでなく、役目を終えたものを静かに送り出しながら進んでいく季節でもあります。
「鴻雁」とは、雁を少し古典的に言い表した呼び名です。
「鴻」には大きな雁という意味があり、「雁」と重ねることで、渡っていく鳥の姿を漢語らしい響きで表しています。
雁は、鴨より大きく白鳥よりは小さい、水辺に暮らす渡り鳥です。丸みのある体に長い首、灰色や茶色を帯びた落ち着いた羽色をしていて、群れで空を渡る姿にどこか凛としたものがあります。
秋に日本へ渡ってきた雁は、春になるとシベリアなど北方の繁殖地へ帰っていきます。その移ろいをあらわしたのが、「鴻雁北」という言葉です。
つばめがやってくる頃と入れ替わるように、別の鳥たちは空の向こうへ去っていく。
見えやすい春のにぎわいの裏で、季節は静かに次の段階へ進んでいます。
去っていくものは、いつもはっきり姿を見せるとは限りません。
気づかないうちに寒さがやわらぎ、重たかった空気がほどけ、冬の名残が少しずつ遠ざかっていく。そうした変化は地味ですが、季節が確かに動いていることを感じさせます。
枚方でも、日差しのやわらかさが増し、風の感触が少しずつ変わってくる頃です。
見上げた空のずっと高いところで、もう春の交代は進んでいるのかもしれません。
「鴻雁北」は、目に見えるものだけではない季節の移ろいを、そっと知らせてくれる言葉です。

もくじ
第十三候「玄鳥至(つばめきたる)」4/4~4/8頃|清明・初候
第十二候「雷乃発声(かみなりすなわちこえをはっす)」3/30~4/3頃|春分・末候
第十一候「桜始開(さくらはじめてひらく)」3/25~3/29頃|春分・次候
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