
「あの日、あのとき、枚方で」は、「枚方で過ごした小さな日常の物語」をコンセプトに、大阪府枚方市での思い出や街の風景、人とのささやかな関わりを切り取ったエッセイ番組です。

今回お届けするのは、お母さんを亡くしたばかりの友人・Nちゃんと観た映画『アルマゲドン』をめぐる物語です。
ベリーショートが似合う笑顔の彼女と、京都まで電車に揺られて観に行ったあの日。今でも、映画の音楽が流れるたびに、あのときのことを思い出しては、胸の奥がきゅっと痛みます。
誰にでもある“別れ”の記憶。ぜひ最後までご覧ください。
Nちゃんの文字と笑顔を、今もはっきり覚えている

中学生の頃、仲のよかったNちゃんのお母さんが亡くなった。その知らせを聞いたとき、胸の奥で何かが音を立てて崩れた気がした。
「死」という言葉が、ようやく現実の重さを持って迫ってきたのは、このときが初めてだった。
Nちゃんは、ベリーショートがよく似合う女の子で、いつも太陽みたいに明るい笑顔を見せてくれた。何度も手紙を交換し合い、彼女の書く文字を見るのが、楽しみになっていた。
Nちゃんの字は、角ばっていて、力強くて、そのまっすぐな線に、彼女らしさが滲んでいた。その字を見るたび、なんだか元気をもらえる気がした。

Nちゃんと観た『アルマゲドン』は、涙の向こうに

そんなNちゃんと私は、映画を観に行く約束をしていた。タイトルは『アルマゲドン』。親が命を差し出す場面があり、私は正直、迷った。Nちゃんがそれを観て平気だろうか――。
けれど、Nちゃんは迷わず言った。
「観たい」
当時の枚方には、まだ映画館がなかった。だから私たちは、電車に揺られて、京都の映画館へと向かった。
スクリーンの中で、世界が終わりを迎えようとする瞬間、お父さんの手が爆破スイッチを握る。お父さんの脳裏に、娘が幼かったときの思い出と、これからの未来が巡る。娘は地球で、事の顛末を見守っている。そしてーー。
二人とも泣いた。エンドロールの音楽だけが、静かに流れていた。
あの文字が、今も私の胸に残る

しばらくして、Nちゃんは家の事情で、滋賀に引っ越した。卒業まで一緒にいられなかったことが、心残りだった。
映画『アルマゲドン』の音楽を耳にすると、私はNちゃんの個性的な文字と、笑顔を思い出す。あの直角的で、カクカクした文字。もう手紙に何を書いていたのか、覚えてはいないけど。
あの日、Nちゃんと一緒に映画を観に行って、本当によかった。Nちゃんが今もあの個性的な文字で、どこかで元気に笑っていますように。

動画では、音楽とナレーションであの日のやり取りをお届けしています。ぜひご覧ください。
続きはYouTubeでお楽しみください


もくじ
お母さんを亡くしたばかりのNちゃんと観た『アルマゲドン』。映画の音楽が流れるたびに、胸の奥がきゅっと痛む。
同じ名前がつないだ友情。もう一人の「ひろみちゃん」との意外な場所での再会
あの日言えなかった「好き」。長電話をしていたMくんが、Aちゃんと付き合って……?
中学3年生の夏、進路の迷い。本当は苦手だった幼馴染のKちゃんが教えてくれた可能性。
バックナンバー

YouTubeでチャンネル登録をしていただくと、最新話のお知らせを受け取れるようになります。
プレイリスト「emotional」「WORLD」や、エッセイ「あの日あのとき枚方で」、ドキュメンタリー「ローカルメディアができるまでの100日間」など、バックナンバーもあわせてお楽しみください。
制作:社会事業開発ACTION