七十二候は、自然の変化を細やかに表現した伝統的な季節のリズムです。一年を72の細やかな時期に分け、それぞれに独特の美しい名前が付けられています。
これにより、私たちの暮らしと自然とのつながりを、より深く感じることができます。
「72の便り」は、七十二候をテーマに、季節の移ろいを丁寧に紡いでいくシリーズです。日本の美しい四季を感じながら、日々の暮らしに寄り添う瞬間をお届けします。

1/30~2/3頃の七十二候は「鶏始乳(にわとりはじめてとやにつく)」。
冬の出口が見え始め、春の気配がかすかに混じり合う時季。
寒さは依然として厳しいものの、光の強まりを敏感に察した鶏たちが、春の訪れを予感して卵を温め始める頃です。
「乳」という字には「産む」「育てる」という意味があり、鳥たちが命を繋ぐ準備に入る様子を表しています。
生き物たちが眠りについていた冬の静寂から、新しい命の鼓動へと、世界がわずかに脈打ち始めます。
それは、まだ目には見えないほど小さな変化かもしれません。
しかし、凍てついていた冬の殻を内側から押し広げ、新しいサイクルへと踏み出す確かな一歩です。
自然界では、誰に急かされることもなく、自らのタイミングで「時」が動いています。
鶏が卵を抱くように、何かを育むには「熱」と「時間」が必要です。
結果を急ぐ現代において、この「温める時間」はじれったく感じられるかもしれません。しかし、鶏始乳の頃が教えてくれるのは、形になる前の微かな熱こそが、命を形作るという事実です。
鳥たちの営みは、春の到来が単なる予感ではなく、確信に変わった証。
光は、日に日に力強さを増しています。
鶏始乳のこの時季、焦って形にしようとするのではなく、自分の中にある「芽吹かせたい願い」を大切に温めること。それが、季節の流れに最も寄り添う過ごし方と言えるでしょう。
これにて【72の便り】は、七十二候を一巡しました。
一年という時間を、自然の呼吸とともに辿った記録です。また巡る季節の中で、この便りがふとした折に寄り添えたなら幸いです。

もくじ
第七十候「款冬華 (ふきのはなさく)」 1/20~1/24頃
第七十一候「水沢腹堅 (さわみずこおりつめる)」 1/25~1/29頃
第七十二候「鶏始乳 (にわとりはじめてとやにつく)」1/30~2/3頃
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