七十二候は、自然の変化を細やかに表現した伝統的な季節のリズムです。一年を72の細やかな時期に分け、それぞれに独特の美しい名前が付けられています。
これにより、私たちの暮らしと自然とのつながりを、より深く感じることができます。
「72の便り」は、七十二候をテーマに、季節の移ろいを丁寧に紡いでいくシリーズです。日本の美しい四季を感じながら、日々の暮らしに寄り添う瞬間をお届けします。

3/30~4/3頃の七十二候は、第十二候「雷乃発声(かみなりすなわちこえをはっす)」。
春の雷が、遠くで鳴りはじめる頃という意味です。
雷というと、夏の激しい夕立を思い浮かべる人も多いかもしれません。けれど春の雷は、もう少し静かで、もう少し曖昧です。
さっきまでやわらかな日差しが差していたのに、気づけば空の色が変わっている。風が少し強まり、窓の外が落ち着かなくなる。そうして遠くから、低く響く音が届くのです。
春は明るい季節として語られることが多いけれど、本当はそれだけではありません。
やさしい光のそばで、空は揺れ、空気は乱れ、ときに雨を連れてくる。あたたかさへ向かっていく途中には、こうした不安定さも、きちんと含まれています。
「雷乃発声」という言葉には、季節がただ穏やかに進むのではなく、内側で大きく動いていることが表れているように思います。
私たちの暮らしも、きっと同じです。
春は、始まりの季節です。新しい環境、新しい役割、新しい人間関係。どれもどこか晴れやかで、その一方で、心の奥では小さな緊張が続いていることもあります。
うまく言葉にできない落ち着かなさ。
少し先のことを考えるだけで、胸の内がざわつく感じ。
昨日まで平気だったことに、今日は少しだけ疲れてしまうこと。
そんな揺らぎもまた、季節が進んでいる証なのかもしれません。
空に雷が鳴る日、私たちはつい「荒れた天気」と受け取ります。けれど見方を変えれば、それは春が本気で動き出した合図でもあります。
何も起こらない穏やかな日だけで、季節は進みません。雨が降る日も、風が強い日も、思いがけず心が揺れる日も、その全部を通りながら、春は少しずつ深まっていきます。
だから、気持ちが整わない日があってもいい。
足並みがそろわない日があってもいい。
空模様のように揺れる自分を、急いで晴れに戻そうとしなくてもいいのだと思います。
雷は、ずっと鳴り続けるわけではありません。
ひとしきり響いたあとは、雨が上がり、空が少し明るくなる。さっきまでの不安定さが嘘のように、景色が静かに澄んでいくことがあります。
「雷乃発声」は、そんな春の途中の気配を映した候です。
まっすぐ整った日ではなく、揺れながら進んでいく日々のこと。
その不安定さごと抱えながら、それでも季節は先へ向かっていることを、この時期の空は教えてくれているのかもしれません。
枚方でも、晴れた空と曇り空が入れ替わるような日が増えてくる頃です。
出かける前に傘を持つか迷う、そのひとときさえ、春らしい時間に思えてきますね。

もくじ
第十二候「雷乃発声(かみなりすなわちこえをはっす)」3/30~4/3頃|春分・末候
第十一候「桜始開(さくらはじめてひらく)」3/25~3/29頃|春分・次候
第十候「雀始巣(すずめはじめてすくう)」 3/20~3/24頃
バックナンバー

