2月。晴れ渡る空に、冷たい風が吹き抜けます。
Re:HIRAKATAは、枚方市楠葉並木2丁目にあるセレクトショップ「de lusso(デ・ルッソ)」を訪れました。
「初めまして」
カウンターの奥から明るい笑顔で出迎えてくれたのは、メガネに蝶ネクタイが印象的な富江さん。
淀川のほとりに広がるヨシを、枚方の“ギフト”として紡ぐブランド「くらわんかファブリック」を手がけています。
「ヨシとの出会いは運命ではない。ヨシはギフト」
そう語る言葉の背景には、ヨシとの出会いから始まった静かな挑戦がありました。

枚方の風景に根づく淀川のヨシ

淀川のほとりに広がるヨシ原は、枚方の風景の一部として、昔から人々の暮らしとともにありました。
かつてはすだれや屋根材、生活道具の材料としても活用されてきた植物です。
時代とともに、その姿を意識する機会は減ったかもしれませんが、淀川流域では今もなお、ヨシを守り育てる人たちの手によって、その環境が受け継がれています。
ヨシは、ただそこに生えている植物ではありません。
水質の浄化や、生き物のすみかづくりにも関わる存在であり、淀川の自然環境を支える大切な役割を担っています。
毎年行われるヨシ刈りやヨシ原焼きといった活動も、そうした自然の循環を守るために続けられてきました。
そんなヨシと出会った人がいる

くずはモールがリニューアルオープンした際、富江さんはセレクトショップ「de lusso」を出店しました。当時は兵庫県から片道2時間をかけて通勤していたといいます。
その後、奥様が保育士を引退されたことをきっかけに、店舗のある樟葉へ。
仕事と暮らしの拠点が、少しずつ枚方へと重なっていきました。


取材中、ひらかたパークの話題になると、ご家族から「(以前、「ひらパー兄さん」をされていた)ブラックマヨネーズの小杉さんに似ているね」と言われていたというエピソードも。
また、休日には、お子さんと淀川の河川敷をサイクリングし、風景をスケッチしたこともあるそうです。
そんな時間の積み重ねの中で、枚方という街への距離が、少しずつ近づいていったのかもしれません。

「いい街ですね」
枚方の印象を尋ねると、富江さんは迷いなくそう言い切りました。
遊園地があり、病院があり、ショッピングモールがあり、暮らしに必要なものが揃っている街。
そして、「くらわんか」という言葉だけで枚方を思い浮かべる人の感覚や、市の花である菊を大切にしている文化にも、魅力を感じているといいます。

そんなある日、富江さんは知人からヨシの話を聞きました。
ヨシの繊維からファブリックを作ることができる——。スタイリストやセレクトショップとして、長く「布」に向き合ってきた富江さんにとって、その話はどこか自然に心に入ってきたそうです。
綿の栽培が、いかに手間のかかるものかを知っているからこそ、自生するヨシという存在に惹かれたのかもしれません。
こうして、富江さんとヨシの関わりは、静かに始まりました。
ヨシを、枚方のギフトへ

ヨシを使って、何を作ろうか。
富江さんが最初に思い浮かべたのは、「ギフト」でした。
ギフトは、誰かを大切に想う気持ちです。
「ありがとう」
「おめでとう」
「元気でね」
言葉にしきれない想いを、そっと手渡すもの。
そしてギフトは、人と人との会話を生み、思い出やご縁を広げていきます。

その想いは、くらわんかファブリックのギフトボックスにも表れています。
手と手がしっかりと握り合うデザインは、贈る人と受け取る人の「つながり」を静かに象徴しているようでした。

くらわんかファブリックの代表的なアイテムのひとつが、「おてふきん」です。
通常の布巾よりも少し大きめのサイズは、ハンカチとしても使いやすいようにと考えられたもの。
五層では厚みが出て乾きにくく、二層では心もとない。周囲の意見も取り入れながら試行錯誤を重ね、最終的に三層というかたちにたどり着きました。

ヨシの繊維は独特の風合いがあり、使い込むほどにやわらかく手になじみます。
華やかさを前面に出すのではなく、日々の暮らしにそっと寄り添うような佇まい。それは、枚方の風景とどこか重なるようにも感じられました。


ほかにも、赤ちゃんをやさしく包む「おくるみ」、富江さんが愛してやまない「ストール」はもちろん、肌の敏感な方にも選ばれている「マフラー」や、窓や収納の目隠しに使える「カーテン」など、ヨシの可能性は暮らしの中で少しずつ形になっていきました。
広がっていくヨシの物語

くらわんかファブリックのロゴには、枚方という土地への想いがさりげなく込められています。
3本の線は、3つのヨシが重なって、「三方よし」を意味します。また、その下に描かれた「くらわんか舟」は、富江さんの蝶ネクタイをモチーフに、リボンのようにも見えるデザインになっています。

「くらわんか」という言葉は、江戸時代に淀川を行き交った“くらわんか舟”に由来します。
枚方宿付近で商いをした名物で、旅客用の三十石船に料理を乗せた小舟(茶船)が寄り添い、「飯くらわんか」「酒くらわんか」と声をかけながら、食事を器に入れて売っていたと伝えられています。

その様子は、江戸時代の浮世絵師・歌川広重の作品にも描かれています。
中央の三十石船に寄り添うように、かまどを備えた茶船が細やかに表現されており、当時の淀川のにぎわいを今に伝えています。

この「くらわんか舟」で使われた厚手の白磁は、長崎の波佐見焼などでつくられ、「くらわんか茶碗」として知られるようになりました。
富江さんは、ヨシという素材だけでなく、この土地に根づく文化や物語にも目を向けながら、ものづくりの背景を少しずつ深めていきました。
そうした流れの中で、くらわんか茶碗と、くらわんかファブリックがコラボレーションした「淀ノオト」が誕生しました。
過去の文化をいまの暮らしにそっと重ね合わせる試みは、ヨシのファブリックともどこか通じるものがあるように感じられます。

▲ ヨシおてふきんは「全国推奨観光土産品」に認定されている。
ヨシとの出会いは、まだ運命じゃない

「ヨシとの出会いは、まだ運命じゃないんです」
そう話す富江さんの言葉は、とても穏やかでした。
ヨシの保存や活用には、もっと長く携わってきた人たちがいる。だからこそ、自分の歩みを大きく語ることはできない——。その姿勢には、素材や地域への深い敬意が感じられます。

淀川の風景から生まれたヨシが、枚方のギフトとして、人の手から手へと渡っていく。
その歩みは、まだ“運命”と呼ぶには早いのかもしれません。
けれど、ある縁をきっかけにヨシを知り、学び、現場に足を運び、暮らしの中で使える“ギフト”として形にしてきた時間もまた、確かに積み重なってきました。
きっと、ヨシと向き合い続ける時間そのものが、富江さんにとってひとつの“ギフト”なのかもしれません。
ヨシでよし。
三方よし。
information
くらわんかファブリック
- 所在地
- 枚方市楠葉並木2-22-10 長沢ビル1F(de lusso くずは並木店)
- 電話番号
- 072-850-8355
- 営業時間
- 10:00〜19:00
- 休業日
- 水曜日
- 駐車場
- あり
- 取扱店舗
- 枚方市観光案内所「Syuku56」
- 大黒屋(大峰本店)
- 北村みそ本家
- de lusso くずは並木店
- 公式サイト
- de-lusso.com
- @kurawankafabric
※商品は時期によりカラーや仕様が異なる場合がございます。最新情報は公式SNS等をご確認ください。

もくじ
淀川のヨシを、枚方のギフトへ。くらわんかファブリックの静かな挑戦
【お客様の声】「丁寧な取材で安心できた」くらわんかファブリック・富江様
企業・団体の皆さまへ
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